ツンギレ猫の日常

うだまの猫ブログです。毎日更新。

【インタビュー】チビ猫の朝は遅い

 

DSC_6349

東京都内にある4階建ての小さなマンション。駅から徒歩2分程度の場所に立地している。――チビ猫・ハルの自宅だ。彼は飼い主と兄猫と暮らす一匹の猫。われわれは、この猫の一日を追うことにした。

※このインタビューはフィクションです。実際の団体・人物とは一切関係がありません。猫には少し関係があります。


チビ猫の朝は遅い

チビ猫の朝はとても遅い。午前9時半をすぎてようやくハルは寝床から起きだしてきた。

――毎朝こんなに遅いのですか?

「どうしても遅くなってしまいますね。家の中で暮らしているので、敵に襲われる必要もなく、安心しきってしまうので……。僕の兄猫は早朝から起きだして、猫としての職務に従事しているようですが、僕は末っ子なのでどうしても甘えてしまいます(笑)」

――起きられないときはどうしているのですか?

「兄猫か飼い主に起こしてもらってます。兄猫が光の速さで僕の顔を舐めまくったり、飼い主の熱烈なチューをされて起こされます。正直、ほぼ毎日コレですね(笑)。あまり自分で起床するという努力をしないんです」


ご飯タイム

 

すると1階から飼い主の「ご飯だよー」という声が聞こえてきた。それを聞いた兄猫は、全力疾走して階下へと向かう。しかし、朝食の時間であるにもかかわらず、ハルは微動だにしない。

――あの、朝食は召し上がらないのですか?

「いや、僕、本当に朝苦手なんで、下に行くのも億劫なんですよ。……でもね、心配無用。そのうち飼い主が迎えに来てくれますから」

5秒もたたないうちに、飼い主が階段を上って2階へと到着した。部屋の隅にいるハルを見つけると、「こんなところにいた!」と声をかけ、ハルを抱き上げてご飯のある場所へと運ぶ。

――……もしかして、ご飯の度にお皿があるところまでこうして運んでもらってます?

「バレましたか(笑)。お察しの通り、毎回運んでもらってます。幸いなことに、生まれてこのかたご飯がないという状況に遭遇したことがないんです。本当に幸せなことですが、この状況にずっと身を置いていると、ついついご飯に対する執着が無くなってしまって……。いつでも食べられますからね、ご飯って。だからなんだか自分で皿の場所まで向かうのが面倒になってしまって。……いやはや、お恥ずかしい限りです(笑)」

皿がある場所にポトリと落とされたハル。ご飯を見て、少しは食欲がわいたようだ。クンクンと小さく鼻を動かしてにおいを確認すると、すぐにパクパクと食べ始めた。

ハルが食事をしているすぐ横では、しゃがんでハルを見つめる飼い主と、ご飯を食べながら時々チラリとハルを見つめる兄猫がいた。二人ともハルのことが大好きなのが伝わってくる。


トイレタイム

 

ご飯を食べ終わると、ハルは玄関にある猫トイレへと向かった。ドーム型のトイレに入ると、くるりと回って入り口のほうを向き、顔をこちらに向けた状態でいきみ始めた。

――失礼ながら、「大」の方ですか?

「そうです。ご飯の後にはお通じがくるんですよね。うちの下僕……じゃなかった、素で間違えた。うちの飼い主はですね、とてもよくできた飼い主で、ご飯の後にお通じがくることを知っているので、すぐに片付けてくれるんですよ。そこだけは、認めてやってもいいですね」

いきみながら、そう語るハルの表情はどことなく自慢げだ。トイレを適切に処理する飼い主のことを誇りに思うのだろう。

「でもね、この朝のトイレタイム。ひとつだけ不満があるんですよ。それは……」

――それは?

「……あ。来ましたよ」

ハルの声とほぼ同時に、トイレにむかって兄猫・リクがやってきた。急いでご飯を食べきったらしく、少し息があがっている。リクもハルと同様、トイレタイムに突入……なのだろうか……?

「トイレタイムじゃないですよ。兄はね、僕の排便シーンをのぞくのが大大大好きなんですよ」

――つまり変態ということですか?

「まぁ一種の変態と言っても過言ではないでしょう。僕がまだ小さかったころ、兄はよく母猫のまね事をして、トイレが終わった後の僕のお尻を舐めたり、猫ベッドまで僕をくわえて運んだりしていたんです。必要ないと何度も伝えているのに、僕の話なんか全然聞かないんですよ。

僕はもう大人なのに、こうやって無事に排便できるのかを見守るんです。正直大迷惑ですが、まぁ僕を思ってのことなので、仕方なく我慢しているんです」

「フンッ!」とハルが息を吐くと、ポトリと小さなう○ちが落ちた。失礼して見せていただくと、実に小さな小さなう○ちだった。このう○ちを見てしまうと、先日取材した兄猫・リクのう○ちがまるで化け物のそれであるかように巨大に見える。

ハルが無事にう○ちを出産したのを見届けると、兄猫はくるりときびすを返し去っていった。本当にただ排便シーンを見たかっただけのようである。

それと入れ替わりに、飼い主がスコップとチリトリを持ってトイレまでやってきた。ものの5秒もしないうちに、う○ちをすくって水洗トイレに流す。実に手際が良い。


自動ペロペロ

 

トイレを済ませると、ハルは2階へと戻っていった。2階ではすでに兄猫がベッドでくつろいでいる。ハルは兄猫のそばへと歩み寄ると、お尻を向けてちょこんと座った。

――今は何をしていらっしゃるのですか?

「ああこれですか。これはね、"今すぐ僕をペロペロしろ"という意味の合図なんですよ。兄猫は僕の毛づくろいをするのが大好きでね。僕がこうやって小さな可愛いお尻をむけて座るだけで、自動的に毛づくろいが始まるんです。兄というよりも、むしろとっても便利な自動ペロペロ器ですね(笑)」

そばで見ていると、すぐに兄猫による毛づくろいが始まった。ハルの後頭部、背中、お尻、しっぽ、前足、お腹、にゃんたま、肉球などなど……。舐めていない場所はもうないんじゃないかと思うくらいすべてを舐めつくしていた。

二匹の横ではNikonのカメラを構えた飼い主がパシャパシャと写真を撮影している。この家の連中は、どいつもこいつもハルのことが大好きなようだ。


ご飯くれアピール

 

猫たちが少しうたたねをすると、あっという間に正午になった。飼い主が昼食を食べ始める。すると、2階からハルがおりてきた。

テーブルの前に座ったハルは、小さな口をモショモショと動かし始める。何度も何度も動かしているうちに、徐々に「ショリッ、ショリッ」という歯がすれる音も聞こえてきた。なんだかまるでご飯を食べているときの口の動きのようだが……。

――ハルさん、それは何をしていらっしゃるのですか?

「これはアレです。ご飯のおこぼれをくれというアピールです。こうやってご飯を食べているときの口の動かし方を再現することで、僕が飼い主のご飯のおこぼれを要求していることを的確にプレゼンテーションするんですよ」

なるほど、と思ってチラリと飼い主の昼食を見てみる。今日のメニューは白米とホイコーローとエビシューマイと卵の中華スープだ。どこを見ても猫が食べられるものはないが……。

――ハルさん、どうやら今日のメニューに猫が食べてもいいものは入っていないみたいですよ?

「マジでか。僕としたことが気づきませんでした。いやはや、ご丁寧に教えていただきありがとうございます。あ、ここ、すごく恥ずかしいからカットしてくださいね(笑)」

そういってハルは飼い主の生足にカプリと甘噛みして2階へと戻っていった。どうやら腹いせにひと噛みしたらしい。でも飼い主は今にも顔面が溶けそうなくらい顔がにやけている。腹いせのつもりが、逆効果のようだ。


「自分の声で人が来るのが面白い」

午後の穏やかな日差しの中。いきなり2階からハルの鳴き声が聞こえてきた。子猫のような愛らしい声で「あーん! あーん!」と何度も何度も鳴いている。1階にいた飼い主と兄猫、そして取材班は大慌てで2階へと向かう。

しかし、そこにはただ猫ベッドに座るハルがいた。

――あの……先ほどの鳴き声はどうなさったのですか? 事故か何かと思ってとても驚いたのですが……

「ああ、すみません説明していなくて。これは、この家の慣習みたいなものでして。僕はね、僕の鳴き声で人間やほかの猫が自分のところにやってくるのを見るのが大好きなんです。子猫のころからよくやっていました。何でもないのに、大声で"あーん!"って鳴きわめくんですよ。

そうすると、兄猫と飼い主が大慌てでやってくる。なんだかそれが面白くてやめられないんです。今では二人とも、何もないことを理解した上で、きちんと僕のところまで来てくれます。でもやっぱり、二人同時に出発しても兄猫の方が僕に到着するのは早いですね(笑)」

確かに、兄猫と飼い主の顔を振り返ってみてみると、二人ともニコニコしているだけだった。毎日のことだからきっと慣れているのだろう。ハルの可愛い鳴き声を聞いて、ハルのところへ行くというただそれだけの行為すら、二人にとっては幸せなことなのだ。少々不思議な慣習ではあるが、この家ならではの幸せな日常なのだろう。


早めのお風呂

 

午後6時。日曜日には、飼い主は少し早めにお風呂に入るそうだ。チャポン、という水音が聞こえてくる。浴室にはハルがいた。

――ハルさん、浴槽のふちに座ってますが、水は怖くないのですか?

「まぁそりゃ人並みに怖いですよ(笑)。でもね、左手でちゃぷちゃぷと浴槽に手を入れて水遊びするのが好きなんです。あとしっぽもわざと入れますよ。全身がぬれるのはイヤなんですが、なぜか体の一部ならばむしろ楽しい水遊びになるんです。僕が遊ぶのを知っているので、飼い主はたいてい入浴剤を入れません」

浴槽の中では、ゆったりと湯につかる飼い主が、お湯の中でハルと手遊びをしていた。時折お湯の中にあるハルの手を握り、指でゆっくりとマッサージを行う。あたたかな手の感触にハルは気持ちよさそうに目を細めた。


夜9時

 

夕食を済ませ、飼い主と兄猫、そしてハルはまったりとリビングでテレビを見ていた。画面の中にいる人間に、時折兄猫がじゃれる。実にかわいらしいしぐさだ。

時計の針が9時をまわると、飼い主がもそもそと動き始める。冷蔵庫のドアをあけ、中から取り出したのは「猫用ジャーキー」。どうやらオヤツの時間のようだ。

飼い主が「ご飯だよー」と声をかけると、兄猫とハルが駆け足で飼い主のもとへと向かう。飼い主は、猫たちが食べやすいようジャーキーを手でちぎり、兄猫とハルに与えた。

すると、ハルはもらったジャーキーをくわえて自分の猫ベッドの下に隠し、ダッシュで兄猫のもとに駆け寄る。

――ハルさん、何をしているんですか?

「見ての通り、兄猫のジャーキーを奪うんですよ!! 兄はね、今ダイエット中なんです! 僕が大好きなこのジャーキーは、すごくカロリーが高い!! だから、兄のためにも僕が食べてあげないと!!」

そう叫んだ瞬間、兄猫から奪い、ハルの口の中にあったジャーキーが飼い主によって取り上げられた。飼い主は「だめでしょーハルちゃん、お兄ちゃんのオヤツとっちゃ(笑)」と苦笑い。ジャーキーを兄猫に返してあげていた。

しょんぼりするハルの横では、弟にジャーキーをとられないよう、ものすごい勢いでジャーキーをむさぼる兄猫の姿があった。


深夜11時

夜もすっかり更けた。1階にいる兄猫・リクがもぞもぞと動き出し、うーんと伸びをする。この家の寝室は2階。そろそろみんなで眠るのだろう。

ハルはどこだろうと探してみると、部屋の隅に丸くなって寝ていた。こんなところで眠っては風邪をひくと思っていると、兄猫がハルに近寄り、首の肉に軽く噛み付いた。どうやらハルをくわえて運ぶようだ。

ハルは慣れているのか、実におとなしくしている。階段まで兄猫にすんなりと運ばれていった。階段には飼い主が待機していた。そこでバトンタッチ。階段を上ってハルを運ぶのは飼い主の役目らしい。兄猫からハルを受け取り、軽々と抱っこしてベッドまで運ぶ。

――毎日こんなにかいがいしく運んでもらってるんですか?

「ええ。兄猫も飼い主も、僕のことが大好きですからね。毎日毎日、チヤホヤと王子様扱いされてますよ。僕は別に1階の冷たいフローリングで寝ても全然かまわないんですけどね(笑)。二人がすごく過保護なもんで。絶対にそんなところでは眠らせてくれないんです」

そう語るハルは、どことなく照れくさい表情をしていた。毎日可愛がってもらってうれしいのだろう。

2階へ到着すると、セミダブルのベッドに三人が並んで眠る。左から兄猫、ハル、飼い主の順番だ。川の字になって眠る三人はまるで本物の家族のようだ。

――毎日この列で並んで眠るんですか?

「兄猫と飼い主が僕の取り合いをしちゃうんですよ。何度でも言いますが、本当に二人は僕にベタぼれでして。だから、取り合いにならないよう、僕が真ん中に眠るんです。本来ならば、一番体がデカい飼い主に一番スペースを与えないといけないんですが、僕も兄猫も寝相があまり良くないもので(笑)。かわいそうですが、飼い主には非常に狭いスペースで寝てもらってます。でも、幸せそうな顔をしてますよ」

確かに、ほとんど身動きがとれないであろうに、飼い主は満面の笑みで横たわっていた。

右には兄猫、左には飼い主がいる状態を確認すると、ハルは小さくため息をつく。

――もしかして、少しお疲れですか?

「あ、バレましたか(笑)。いやもう結構疲れましたよ、今日も。今日一日ご覧いただいてわかったかと思うのですが、この家での僕の業務は"かわいがられること"。これがね、案外疲れるんです。ただ身をまかせてかわいがられていればいいって思うでしょう? 違うんですよ。ただかわいがられるだけじゃなく、僕の世話をすることによって、そのケアをする主体が何らかの癒やしを得なければならないわけです。猫って世話するだけで癒やされるでしょう?」

――確かに、今日一日ハルさんのお世話をした兄猫さんも飼い主さんも、満足しきった顔をしていますものね

「そう。それこそが僕の目的なんです。ケアとは、癒やしの逆説的な形象。猫は天性のカウンセラー。今日一日、取材班の皆さんには、もしかしたら僕は世話をかけられてばかりの甘えん坊に見えたかもしれない。

でもね、世話をすることによって、兄も飼い主もとても元気になるんですよ。だから僕は、朝も起こしてもらうし、自分でご飯のお皿まで歩いていかないし、毛づくろいだって自分ではしない。それらを自分で行うことは、兄と飼い主の仕事を奪うことになる。それは、彼らのためにはならないんです」

そう言ってハルは、疲れきった表情で、しかし誇らしげにため息をついた。小さな体で、自分の倍以上もある大きな兄猫と、大きな飼い主の心身を癒やす仕事をハルは担っている。兄猫はハルの背中を、飼い主はハルの手を握り、すでに眠りについていた。ハルの体のどこかに触れていないと、二人とも眠れないとのことだ。

兄猫が"ピー"という鼻息を漏らしながら眠り、飼い主が「ゴッ」という寝言を言いながら眠っているのを、ハルは優しいまなざしで確かめて、自分も目を閉じた。程なくしてハルの鼻からも「プスー」という鼻息が漏れ始める。どうやらハルも、眠りについたようだ。

兄猫と飼い主。自分の大切な家族が日ごろの疲れを癒やし、安心しきった顔で眠るのを見て、ハルも心から満足そうな表情で眠る。

……チビ猫・ハル。彼の明日はまた、遅い。

Return Top